美術のアイデアの出し方

グループ展(美術)のテーマがスポーツ。
先日、そのオンラインミーティングに参加したのだが、時間切れで言い切れなかったことを書く。届く人に届けばいいと思う。

テーマから自分の美術作品のアイデアを出す時、自己流だけでもいいが、悩んだり行き詰まるなら、概念(あるいは本質)を掴み、後述の4通りのどこに自分がいるのか認識することで可能性が広がる。

そこでまず、テーマである「スポーツ」の概念の一般的な定義は「一定のルールのもと、競ったり楽しんだりする身体活動」。

(もちろん国や時代や人により異なるが、概ね現在の一般的な定義は上記だ。過去のフランスでは貴族の遊びの狩猟のことであったり、日本の大正時代では欧米から来た競技のことを指すこともあるがそれはあくまで余談。先のミーティングでは、概念を美術アイデア化する方法=後述の2と3の話をしようと思ったのだが、話始めに言葉の上辺だけのアンチテーゼごっこで否定されてしまったので、視点の幅を広げる為のジャストアイデア1つと次のメッセージだけ伝えた)
私の意見は、基本はその人がスポーツだと思っていれば何をどう表現してもいい。

たとえば、
スポーツをテレビの中で見るのが1番楽しいと思っている人がテレビの枠を造形で作ることもいいし、
スポーツの源泉は筋肉だと思う人が筋肉の繊維をガラス細工で作ることもいいし、
スポーツは情熱だと思う人が炎の絵を描いてもいいし、
理想の競技場をジオラマで作ってもいいし、
未来のスポーツの祭典のキャラクターデザインをフィギュアで作ってもいいし、
架空のスポーツ漫画のワンシーンをB4の紙に墨で描いてもいいし、
バーチャルスポーツ選手を写真で作ってもいいし、
応援歌を想定してCDジャケットをデザイン・印刷してプラケースに入れてもいいし、
クラフト的にボードゲームを作ってもいいし、
技も個性もないというならスポーツ新聞一年分を硬めてもいいし、
架空の競技やチームのユニフォームを自作してもいいし、
100メートルの紙の上を走って足跡をつけてそれを解体して足型の立体に組み直してもいいし、
ほかにも色々考えられるがこの位として、要はその人がスポーツを思って作れば色々な内容と表現方法があっていい。

サクッと30分位でも私1人でこれくらいのアイデアは出せる。自分の美術で表現したいこととは別に、「アイデアの出し方」に取り組んできたからだ。
(もちろん世界の真面目な美術展ではコンテクストをきっちり勉強した上での新しい提案が必要だが、楽しむことが核のグループ展であるなら上記のようなアイデアから作ったものも楽しめるだろう)

美術のアイデアの出し方には、大きく4通りがある。

1つ目は、個性派・自分流。
いわゆる個性派と言われる人や、独自のセンスや持ち味、自分はこの技法をプロとしてやるという方は、どんなテーマが来てもそのテイストや技術やアレンジの仕方で出せばいいと思う。点描でも彫刻でもダークトーンでもオリジナルモチーフでも。こういう人はテーマで悩む事はあまりない。一方で、よほどのポテンシャルか、その持ち味や技を極める努力がないと、薄い自己満足や身内の馴れ合いで単調さに留まってしまう傾向がある。それを打破する探究の段階が大切だ。

2つ目は、自由連想法。
先のスポーツのテーマでいえば、好きなスポーツやシーン、自分が部活でやっていた競技、見て感動したプロのプレイ、スポーツの道具、こういう姿がかっこいいと思う、など自分の想像でテーマを追っていく方法。
先日のミーティングの参加者の話の傾向では、この方法のみを「美術のアイデアを考えること」だと認識しているように見えた。自分の思いついた内容でいいのかとか、これはテーマに含まれるのかとか、要は現象=五感で捉えられるもの、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の現象界から考えているので行き詰まりも感じやすい。それを打破するには現象を超えた概念(本質)を捉えることだ。そこから自分の作品としてどう現象化するかを考えることで、連想できる範囲=自分の引き出しの限界を超えるのだ。そしてそのためには次の3つ目が必要になってくる。

3つ目は、頭脳派・企画型。
様々な美術のジャンルや、美術に限らず表現の手法を学び、それらを分析し、解体したり組み合わせたり、何をどう見せるかを考え、より良いものを作る、デザイン的あるいはクリエイティブプランニング的なやり方。
そしてそれは先人達が研究を重ねてきているので、ある程度は基本メソッド・手法を掴み、更に自分なりの考えや工夫を重ねていく。
先のテーマのスポーツなら、競技という枠だけではなく、時間軸という見方、空間を多角的に見る視野、それを取り巻く物質を捉え直したり、メディアやオーディエンスという外部を見たり、ひとつの物事を異化していったり、持ち得る技法からの逆算、別のものを組み合わせたらどんな設えになるかなどの仮説、もちろんコンセプチュアルな戦略を考えたり、内容と技法を組み合わせたり。
大抵の場合、1つ目の個性と思っているものは、ステージを上げれば通用しなくなる。2つ目の自分の枠の中の連想法は、ある程度作り続けると行き詰まる。それらを打破する、あるいはプロとしてクリエイティブなことをやっていくには、この3つ目が重要だ。ここの幅広さ(知識量だけでなく、分析や考え方の多様さ)と柔軟かつ鋭い掛け合わせで差が出てくる。そして、より作ることを面白がれるようになる。

4つ目が、直感・巫(かんなぎ)系。
偶然性や、インスピレーションや、謎の流れやエネルギーでできたりする、自分の枠を超えたアイデア、表現。
これを天才性とか憑依型と呼ぶ人もいるが、割と普通にふと起きることでもある。美術には巫の側面も古来よりあり、超心理学など様々な研究もなされてきたがここでは割愛する。
1つ目の自分の個性や技の枠でもなく、2つ目の連想法の自分の引き出し内のものでもなく、3つ目の考え抜いたり工夫したことでもなく、なぜかそれを思いつき作るということがもちろんある。
閃きとか直感というものは、期待して固執すると来ないもので、常に作ったり考えたりしていると準備が整った時に来たり、ゾーンに入って作っていると流れていたり、自分の感覚を素直にニュートラルに調整していると掴みやすくなったりする。これが不思議な美術の魅力でもある。
(C)夜の魚

不思議と夢の話~夜の魚~

心理学、精神世界、日常の中の不思議なこと。 わかり合える仲間や、どこかでひっそりと自分の感覚や内宇宙を考えている人へ向けて。 WEB↓ http://atelier-clos.jimdofree.com