「伝えるものと受け継ぐものの物語」ゴールデンカムイ 大団円を迎えて


今日、ゴールデンカムイ最終話が掲載され、作者の語る大団円を皆で迎えることができた。そのことにまず感謝したい。

アイヌ文化と冒険と日本、個々の戦いと生き方を問う群像劇であり、誠実な絵と力強いストーリーと多彩な魅力で、私はリアルタイムで夢中になって読んできた。

以前、なぜ私がこの作品を推すのかを書いた時「人間が生きるということ、業を背負っても自ら生きる人間を描いていること」等、色々綴ったが、最終話、それに至る本誌勢の沢山の思いや様々な展開、それらを経て今言えることは、
「伝えるものと受け継ぐものの物語」。

アシリパさんはアイヌの文化やカムイ・自然を守ろうとすることを先代のアイヌ達とウイルクと土方さんから紡がれ、鯉登少尉は日本と部下を守ろうとすることを鶴見中尉やモスパパや沢山の日本兵達の思いから受け継ぎ、白石は1人の男の生きた記憶と夢を房太郎やキロランケから、ヴァシリも自らの夢と1人の男の生きた記憶を尾形から。杉元も過去の自分の呪縛から、新たな故郷へ。

杉元の干柿と過去からの解放、アイヌを守ること、鯉登による月島と部下と日本を守る意志、永倉さんや夏太郎や門倉やキラウシのその後、杉元とアシリパさんの共に歩む未来、ヴァシリの尾形への弔い、そしてシライシ王国金貨。こうだったらいいな、が全て詰まっていたので単行本で少し変わるかもしれない。

希望の立役者は白石や鯉登(もちろん杉元とアシリパさんも)だが、特に今日は房太郎とヴァシリというキーマンについて思う所が多い。
それは「夢と絵描きの作品が人を救う」かもしれないということだからだ。

捨て子で寺育ちの白石、土方一派の隠れ家の寺で房太郎に夢を訊かれ答えられず、以前彼に言われた「帰るところがないならお前も自分の国を作れ」という言葉通り、本当に南方で国を作った(様な描写)。房太郎の夢を継いだのか、その夢によって救い・救われるものとなったのか。
「お前ら故郷で家族になっちまえ」ってアシリパさんに言ったのも房太郎、月島の人間性の萌芽にも彼が関わっていた。

一方、私は「人間が生きるということの物語」と本作を評し、尾形について語ってきたが 彼への祝福は彼を見つめる目、明かされなかった勇作さんの目と、ライバル・ヴァシリの目「山猫の死」で果たされたと思う。

ヴァシリは元々絵が上手く、美術学校に行きたかったが家が貧しくて行けなかったという(作者談)。狙撃手のライバルとして尾形の最後を見、元々の夢(であっただろう)絵描きとなり、「山猫の死」を描いた。

熊岸長庵が偽アイヌの村で死に際に「本物の作品を作りたかった 観た者の人生をガラッと変えてしまうような 本物の作品を」という言葉が、作者自身にも言えるし、私にも一番響く。熊岸の絵は白石を脱獄王に変える本物の作品であり、ヴァシリはあの作品を描くことで本物の画家になれたのかもしれない。

私も一枚の絵で自分が絵描きだと人生を変える認識をしたし、野田先生の作品も誰かの人生を変えただろう。

この作品は自然や動物やカムイの話もそうだが、食卓に意味があることが多いように思う。
カレーを囲むゴトリ(杉元・アシリパ・白石)と海賊房太郎とヴァシリ。この食卓にもその先を示すキーマンや夢が現れていたと思う。この作品に意味の無い食卓はなかった。

「最後の晩餐」をはじめ西洋画(宗教画)や映画のオマージュが多々あったことや、実在の人物の要素もスパイス程度に効かせていたが、最後のビルマ語のシライシ金貨はなぜビルマ語か考えると、「山下財宝(金塊がビルマに…いう都市伝説)」に当たる。鯉登中将や国立公園等、今の歴史に繋がるような整え方だ。

他にも、鶴見中尉のイメージソースの指の骨の話、作者の祖父や不死身のモデル、紅子先輩やサーカスのモデル、作者のブログで出てきたチカパシと重なるアイヌの話等、様々な魂・思いと作者のオリジナリティがこの作品のとてつもないパワーになっているのだろう。

二瓶の単発銃も猟師の魂として、二瓶の息子から二瓶、二瓶から谷垣、谷垣からチカパシへと受け継がれる。和泉守兼定も土方から杉元、そして未来のアイヌの為に受け継がれた。皆の沢山の意志も様々な人と未来に。

この一連の旅を振り返ると、書ききれないが、人との出会いと戦いと食と学びと輝きがてんこ盛りだ。

雪山での杉元と囚人とアシリパさんとヒグマとの出会いからチタタプ、白石や尾形との邂逅、鶴見中尉、谷垣や野間等造反組、二瓶とレタラ、土方さん、ニシン猟と辺見ちゃんと白米とシャチの竜田揚げ、茨戸の用心棒、札幌人食いホテルの家永と牛山とキロランケとビールとカレー、インカラマッと競馬、親分と姫とヒグマ、江渡貝くんと前山さんと月島さんとなんこ鍋と最後の晩餐の絵、脱獄王物語、偽アイヌのコタン(昨今のアイヌを口実にしたなりすまし的左派の利権問題と重なる)鈴川と熊岸、白石救出と鯉登少尉と大雪山越えと鹿の中での干柿の話、稲妻強盗と蝮と第7師団の宗教画、釧路の鶴の舞と姉畑先生とキラウシとこぐまちゃん、ラッコ鍋、暗闇温泉とトニさん、コタンの鮭の晩餐とチタタプ、網走監獄襲撃と第7師団とウイルクと犬堂と門倉と宇佐美と銃撃、樺太へのそれぞれの旅立ち、スチェンカと岩息とバーニャと灯台守とボルシチや少数民族の生活、ヴァシリとのスナイパー対決、サーカス、ソフィアとキロランケと鯉登覚醒、尾形劇場・流氷問答と生きる為の逃走、土方と用一郎、門倉とキラウシと関谷、鯉登誘拐事件と月寒あんぱん、登別温泉の菊田さんとイポプテと宇佐美と二階堂、活動写真とチカパシの新しい家族、ヴァシリ同行日本行きと棒鱈芝居の尾形、海賊房太郎や平太師匠、谷垣とインカラマッと家永と月島と鯉登、オストログと上エ地と札幌ビール工場総員戦、狙撃手の完成と宇佐美ピエタ、カドクラスイッチ、ソフィア合流と鶴見劇場・教会問答とゴールデンカムイのタイトルコール、イポプテと菊田さん、東京愛物語の勇作さんと杉元と菊田さんとカエコさんとエビフライ、金塊と函館全面戦争、土方一派とソフィアのゲリラと第7師団、イカ焼きとウォッカと団子、アイヌと土方さんとウイルクの縁、トニさんの光、二階堂の半身との再会、キラウシのアイヌとしての希望と引き鉄、牛山の栄華、鯉登と土方の剣、ヒグマ、尾形の祝福、鶴見中尉と杉元と地獄列車の特等席、そしてこの大団円。

同日から東京でゴールデンカムイ展が始まった。


追記
イポプテのマキリの話はともかく、キラウシは何故映画に?2人ともアイヌとして表現したということか。実写映画化なら、門倉とキラウシとマンスールの映画話ならいいな。

不思議と夢の話~夜の魚~

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