渋谷の猫アートが「化け猫」に/アート作品と商業デザイン

渋谷の商業施設に納品された猫のアート作品が作者に無断で改変されていた事がニュースになった。

作品のビフォーアフターの写真と詳しい経緯はアーティストマネジメント会社HP↓

こちらの件、感情的にはアーティストサイドの痛みと怒りに同感だが、ヒステリックに企業サイドを叩く声に、色々物事を整理した方がよさそうなのでこの記事を書く。

アート作品「渋谷猫張り子」:アーティスト吉田氏
渋谷の商業施設ミヤシタパーク:三井不動産
施設内のBAR「SOAK」の初期運営とアート発注:BAKERU社
BARの事業譲渡(現運営)とアート改変:マザーエンタテインメント社+アート改変(グラフィティ風のラッピング)の発注受けたグラフィックデザイナー

大規模商業施設で、テナントが店舗クリエイティブも運営もする中で発注されたアート作品、そのテナント運営が別会社に移りその運営が「アート作品ではなくインテリア(商業デザイン)と捉え、模様替え」をした様な認識だったのではと想定する。

先入観や好き嫌い等を抜いてHPリンク上の元の作品と改変後の作品を見てほしい。
元の作品は、アート作品と言われればアートに見えるが施設の備品と言われればそう見えてしまうという意見がネット上にある。(薬局の店頭什器、招き猫等)額装された油絵の様に「アート作品」とわかりやすいものならこういう事にはなりづらいと思うが、パッと見で工業製品みたい(日本的な可愛い伝統の意匠をプラスティック人形にした様なクールジャパン、あえてそういう手法なのは重々承知しているし、私はこちらのアーティストが素晴らしいと思っている)で、BAR内のプールサイドで手から水を出してる設計だから、アート意識ではない人には施設のインテリアというか備品的に見えてしまう可能性がある。

改変後の作品はグラフィティ風で「渋谷」らしさもあり、今の運営会社が模様替えとして、「アーティストではなくデザイナー」に発注した感じを受ける。

つまり今回の悲劇は「アート作品と商業デザイン」の取り違えじゃないかと私は考えた。

私は商業デザインを発注する仕事をしてきたから、商業デザインの場合、作り手側から「著作権」をクライアントが買い取っているのが基本で、買い取り後の使用範囲は契約等あるが、クライアント都合でデザイン変更とかもあるし、「自分(アーティスト)の作品ではなく企業からオーダーされたクリエイティブ」という事が大半だ。(そこの意識が整理できていないデザイナーもいて、納品後に文句言ってくるアーティスト気分の勘違いさんもいる)

マザーエンタテインメントは有名なクラブ運営もしていて、アートよりデザイン系の思考に近いと考えられる。
だから、店舗備品のデザイン(インテリアのリフォーム)を、権利上でオーナーである三井不動産に許可を取って(商業)デザイナーに変更デザインを発注した感じで、悪意は無かったと思われる。

要は「アートの文脈ではないところ」で事態が動いていたと私は考えるのだ。

もちろん、企業側もPR等でアート作品として打ち出していたし、現運営のマザーエンターテインメントもそれを知らないとは考え辛い。続報で作品にはアーティストの名(銘板)があったことや、作品を覆うラッピングデザイン内にデザイナー名があったことからデザイナー側にも「アート」の意識があったことが垣間見えるので、ギルティと言える。
(著作権はアーティストにあり、オーナーの持ち物だとしても無断で改変はNGなのだが、マザーエンタテインメントはオーナーである三井不動産に改変について確認をしていたというので、アーティストに確認する必要をマザーエンタテインメントも三井不動産も担当者レベルでは認識していなかったと思われる)

(私個人も子供の頃から、展示の為に勝手に絵の端を切られて構図が台無しになったり、無断で先生に加筆されたり、無配慮な学校側に全国展の受賞作の絵を額装もせず屋外に展示されて掃除の水がかかったり、貸した作品を勝手に捨てられたりしたので、作品を汚される痛みは人一倍わかるし、だからこそ自分の原画は基本的に売らないスタンスで、売るものは商品意識で設計したものだ)

今回の悲劇が全国ニュース(NHK)になったのは、アーティストマネジメント会社がネット上で署名を集めて話題にした事、作品意匠が「猫」という好かれるものでアイキャッチとなった事、三井不動産という大手を叩ける“正義という名のガス抜き”となったであろう事が、起爆材と考えられる。

アーティストサイドは買い取り後の作品返品もされ、「呪物」の様だとネット上に書かれたラッピングを剥がす作業中だという。

BAKERU(場を仕掛ける、というコンセプトの社名だが、「化ける」とも読める)がオーダーした猫の像が「張り子」の名の通り(張り子とは芯材や粘土の上に紙などをかぶせて貼る工芸)、上に貼られて(改変デザインのラッピングシート)、BAR「SOAK」(ソークだが「粗悪」とも読める)に置かれる。

なんとなく現代の怪談というか、「言霊と呪い」の構造の様に感じた。
アーティストが企業と付き合う時、この意識の差を認識して、悲劇防止を互いにしていきたい。
Image by Pixabay

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