才能税としてのパトグラフィ

私の周りには才能のある人達が現れる。美術関係だけでなく、有名な曲を作った音楽家、実験的な現代表現の研究者、長年業界で実績を上げ続けている人、独自のシステムを開発した人、お酒の力を引き出す人、注目株として頭角をあらわす人。確かに才能というものは実在する、と言える。素質を努力や訓練で強化し、現実世界でそれを使って価値を生み出し、認められていく。当人は人見知りだったり、静かで優しく良い人が多いのだけれど、どこか壮大で激しい力を感じさせる。そして、皆、心や精神の病を知っていた。


うつ、睡眠障害、解離、ボーダーライン、神経症、不安障害、愛着障害。過去に耐え抜いて病を超えた人もいれば、病と付き合い続けている人もいた。才能による創造や探求の戦いや求道は、救いを求める行為、化物のような身の内のエネルギーを飼いならす行為、苦しみ探って辿り着いたライン。単純にそれが“好き”だけでは、辿り着けない領域に至る人達は皆、心の壮絶な戦いを知っている。


「パトグラフィ(病跡学)」というものがある。天才的な芸術家や研究者、実績を残した人々の表現や人物伝から、精神や心の病との関連を見る学問である。漠然と認識していたが、それを知った後で確信した。芸能人がその有名さゆえにプライベートも名指しされる負の面を有名税というが、圧倒的な才能というエネルギーを働かせると一般的な精神状態や生活にアンバランスや苦が生じる“才能税”のようなものが、精神と心の病だと。

芸術家は変わり者などという外側からの評価ではなく、作るために必要なエネルギーの回路である自分はその回路を開いている分感受性が亢進しすぎるとか、内側からの認識に“才能税”という名称・概念は使えると思う。病を抱えた人は、“普通ではない自分”に引け目を感じがちになるのだが、才能があるゆえの税のようなものだと思えば何か納得するだろう。

そこまで天才的でなくとも、何かの素質が強い人はその分、税も一般的なラインより大きくなる。当人は苦しむが、病は否定すべきものでも恥じるものでもないことを知っていてほしい。簡単にはいかないかもしれないけれど、自分の心やエネルギーを知って付き合うことが、あらゆる意味で命綱になると思う。






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不思議と夢の話~夜の魚~

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