ルーツの旅.1 〜祖父が守った『七ツ島』探訪〜

『縄文の聖杯』と呼ばれる土器がすぐそばで発掘され、古代の人々が神=自然を思い祭祀を行っていたという鹿児島・七ツ島の父島を訪れた。


景勝地として愛でられていた7つの島は、大規模工業地帯として埋め立てられ、母方の祖父が保全活動で守り抜いたこの島以外はもう無い。一族が見た海は変わってしまったけれど、桜島は元気。

誰もいない島は、波も人々も来ず 潮風を受け、佇むばかりだ。

鹿児島は七ツ島の山手に父方の祖父の終の住処があった。逆に父方の祖父が昔勤めた鹿児島の学校の山手に母方の家があったらしい。祖父同士が互いの仕事を見ていたと思うと感慨深い。


理想に燃えた本を書き、禅寺にこもり、政治活動やら何やらで財をつぶしたという母方の祖父の事は 殆ど聞く事が出来ない。山に書斎をつくり、考えるヒトだった祖父は変わり者扱いされていたのだろう(私は複雑な家族環境を抱え、親族と疎遠である)。叔母の手記の細切れの情報を拾って一番衝撃的なのは、祖父がガンジーに会い インド独立運動に参加しようとした事。祖父には色々な話を聞いてみたかった。

大規模な埋め立て計画で七ツ島は無くなってしまう事となり、憂いた祖父と有志が1つだけでもと保全した1島が現存する父島だ。この島については記録もあまり無く、周りは草だらけで地元民からも忘れられているらしい。

祖父は私が生まれる前に亡くなっており、先日ひょんな事から、祖父が関わったこの場所を知り、興味を持ち、弾丸で訪れることにした。

島と言っても上部以外は埋め立てられた小ぶりな岩なのだが、威厳のある存在だ。


岩の隙間に座ると幼稚園児の頃の自分に戻ったような、素直でプリミティブな感覚が蘇った。そのままじっと、この島に波や他の6島や人々が来なくなったことを悼んだら、本当に優しい磯風が吹き続けていて、「でも 変わらない風がくる」という言葉が心に浮かび、自然に涙が流れ続けた。


山手と夕空を臨むと、遠い縁のある人々が山肌に佇んでいるように見えた。

この島から去る時、最寄りの駅まで黒い蝶が一緒に私の横を飛んできたのが、写真で見た若き日の祖父の口髭に見えて、「そばに来ているのかな」と思っていた。夕方の小さな駅から鹿児島中央駅へ向かい、ホテルへ。


眠りの中で私は、白い短い着物を着て、この島の周りをぐるぐると泳いでいた。島自体に優しい心が宿っており、私は島に「ずっと一緒だ」と約束をしたことを思い出した。

思い出した、という実感が目覚めとともにあったのだ。


この優しい潮の香りは、次なる地へ私を送ってくれた。

(この旅は2016年の秋、奇跡のような1週間の話である。

仕事を辞めて自分の時間を得た私は、とあるきっかけで自分のルーツを調べることになった。そこで急遽、品川から新幹線を乗り継ぎ、出たとこ勝負の「ルーツの旅」を始めた。スマホと財布、いつものトートバッグに最小限の旅道具を持って。事前に調べて興味を持ったコト以上のものが旅中でわかる、何かに仕組まれたような旅となった。)


Image(C)夜の魚.2018

不思議と夢の話~夜の魚~

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