ゴッホ展で絵描きの矜持を再確認

『ゴッホ展』を観に、東京都美術館へ行ってきた。

今回の展示の為の貸出元であるクレラー=ミュラー美術館のコレクションは、豊かだ。ゴッホ展と言いつつ、ミレーやルノワールからスーラ、ルドンの「キュクロプス」(ひとつ目の有名なあの作品)、ブラックとカンディンスキーなど私の好きな画家の盛り合わせの様。あとこのコーナーの額装が良かった。グレーのミニマルな額縁なのだが、艶消しで幅が絶妙で作品を引き立てている。基本的に絵画の額縁はその絵画の時代のスタイルか、そのコレクションの所蔵先(ロココ調の金色でゴテゴテ彫ったもののイメージが強いかもしれない)によるが、今回の展示のものは視覚的に新鮮で、シックで良い。

ゴッホの素描は力強く味があって良い。特に木の枝振り。面をなぞるストロークが5センチ以上のものもあり、迷いなく掴んで描いているなと嬉しくなる。気になる絵を見る時は昔から、どう描いたかをシミュレーションすることで自分のモノにするよう脳内でトレーニングする癖があるが、これらの素描はどこを描きたいのか定めてから力の粗密を意図的に使っているとわかる。

ゴッホの静物や室内画は、緑味のある黒や青味のある灰色が美しく、力強さは彼らしいが、あの独特のタッチを出さない為、面の油絵具の光沢がまた違う魅力を持ち、かすかな官能を湛えている。
スタイルを革新する段階の実験作のような作品を見たが、確かに印象派の技法を組み合わせたり、もちろん浮世絵の影響もあるが、理解が進む。

満を辞してアルル時代。多分一般的なイメージのゴッホの表現スタイル。鮮やかなイエローやブルーの色彩、うねるタッチ、エネルギーの放出。
個人的には「種まく人」が1番ここで好きだ。赤茶を混ぜた様なピンクとコバルトブルーを白で割ったような水色が筆で交互のうねりが畑の土に。イエローオーカーの遠景、黄色い太陽と空、無骨な農夫への慈しみ。閉館アナウンスの流れる中、最後にもう一度観た。
「夜のプロヴァンスの田舎道」にはあの夜のイメージと糸杉が出てくるが、構図が興味深く、木の上部は画面より外へ見切れている。それが、天へ届く黒い炎の様に見え、祈りの絵だなと個人的に思った。

ゴッホは苛烈なエピソードや不幸のイメージをメインで持つ人も多いと思うが、これまで何回か原画を観てきたけれど、作品を見ると“ホコホコして 絵を描くことが好きなんだ“という素朴でポジティブで幸福な心が伝わってくる。

「納得する絵が描けたら死んでもいいな」と絵描きの矜持を再確認する美術展であった。

(本記事は、2021.11.6にInstagram等にUPした鑑賞レポートの転載です)

(C)夜の魚

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